2021年12月10日金曜日

「梅毒」感染爆発に気をつけろ 全国で34%増、東京で60%増

 新型コロナに気を取られているうちに静かに広まっている感染症がある。主に性行為によって感染する「梅毒」だ。患者数は2013年に全国で1000人を突破、今年は7000人突破が確実視されている。しかもこれまでは東京、大阪などの大都市圏での増加にとどまっていたが、最近は地方都市に広がっているという。「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(KADOKAWA)の著者で日本性感染症学会の功労会員でもある「プライベートケアクリニック東京」の尾上泰彦院長に聞いた。

「梅毒は今年に入り日本全国では約34%、東京では約60%増加。梅毒は全件数を1週間以内に届け出しなければならない5類感染症に指定されています。昨年の44週(~11月1日)までが4782人に対して、今年の同時期は6398人で、すでに昨年1年間(53週)の5784人を上回っています」

 驚くべきは東京の増加率。昨年の45週時点では1312人、53週で1579人だったのが、今年は45週までに2085人と昨年の1.6倍にまで増加している。

 また、これまでには報告数が少なかった地方都市でも増えていて、大分県では、2014年の1年間に5人だった感染者数が今年11月17日までに44人となった。うち20~40代が32人(男性25人、女性7人)となっている。

「東京都の梅毒患者報告数を男女別に見ると、10代(男性10人、女性38人)、20代(同374人、501人)までは女性が多いのに対して、それ以降は逆転。30代(417人、122人)、40代(379人、44人)、50代(171人、11人)、60代(39人、0人)、70代以降(21人、5人)と男性が圧倒的に多くなっています」


■10歳未満の感染者も

 東京都の報告で気になるのは、0~9歳の感染者が複数報告されていること。

「日本産婦人科医会が妊娠中の梅毒感染症に関する実態調査(2015年10月~16年3月)によると、19歳以下の妊婦の場合の感染率は537分の1に対し、20代は2449分の1、30代は8091分の1、40代以上は6012分の1と、若い女性の分娩妊婦の梅毒感染率が高くなっています。梅毒に感染した母体から胎児への感染リスクは60~80%と非常に高いことを男女とも知っておくべきです」

 日本の梅毒患者数は戦後すぐの1948年には年間22万人が報告されたが、抗菌薬「ペニシリン」の出現で激減し、1967年の1.2万人をピークに1997年には約500人まで減った。ところが、2011年から再び増加している。

「背景には観光立国を目指した日本に多くの外国人が流入したからではという説、出会うはずのない人と出会うマッチングアプリなどSNS説、不況で経済力のある男性と交際するパパ活説などがありますが、いずれもエビデンスはありません」

 今年の急増は、新型コロナで控えていた風俗店の利用が増えたとの見方もあるが定かではない。そもそも梅毒とはどのような病気なのか?

「梅毒は、細菌の梅毒トレポネーマが原因の感染症です。主に性行為やそれに類似する行為による接触で感染します。3~6週間の潜伏期間を経て性器にしこりや潰瘍ができ、放置すると全身に多様な皮疹、粘膜疹などが出現します。脳や心臓に障害が出たり、妊娠中に感染すると、母を通じて胎児に障害が出たり、死亡することもあります」

 2005~08年の米ニューヨークの報告では、MSM(男性間性交者)は、男女間の性交に比べて100倍、梅毒になりやすいことが報告されている。

梅毒の検査は2種類ある。感染初期に現れる潰瘍から直接トレポネーマを見つける検査と梅毒血清反応検査だ。前者はらせん状菌が見つかれば梅毒と診断される。ただし、検出率は悪く、手技も煩雑なため日常的には使われない。後者は梅毒があるかを見る定性検査と梅毒の程度を見る定量検査がある。

「梅毒血清反応検査は、原因菌であるトレポネーマに対する抗体を測定することで梅毒にかかっているかを調べる検査です。脂質抗原を使うSTS検査と梅毒病原体を抗原として用いるTP検査の2種類があります。STSではRPR法が使われます。この方法は感度が良く、比較的早期の梅毒も検出できる半面、梅毒に感染していなくても陽性と出る場合があります。一方、TP検査は特異度(本当に梅毒かどうかの信頼性)は高いものの、初期梅毒が見つけにくいことがわかっています。また、梅毒の血液検査では感染機会からある程度経過しないと判定できない時期があります。『ウインドーピリオド』と言います。このため、感染機会から4週間経過している場合はRPR法で、2カ月以上経過している場合はTP法で検査するのが一般的です」

梅毒が陽性の場合は、ペニシリン系の飲み薬を2~12週間服用する。服用後1カ月経過した時点で再度RPR法により抗体値の下がり具合を確認した上で、医師が治療完了を宣言する。

 なお、梅毒の世界標準治療である「ベンジルペニシリンベンザチン筋肉注射薬」(ステルイズ水性懸濁筋注)が今年9月に承認された。使えば注射一本で治療が完結することになる。


日刊ゲンダイヘルスケア 2021年12月10日掲載


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